小説『雨降る森の犬』(馳星周 著)を読みました。
先日読んだ『地図と拳』(書評記事はこちら)は重厚な歴史物でちょっと疲れたため、今回はもう少し読みやすい本をチョイスした次第です。
以下、ネタバレとならないよう注意しながら、本の感想を書きました。
未読の方の購入判断材料になれば幸いです。
- 爽やかな小説を読んで、心の洗濯をしたい方
- 長編の小説をじっくり読み進めたい方
- 山好き・犬好きの方
本のあらすじ
山の癒し、犬の恵み──。
9歳で父を亡くした中学生の雨音は、新たに恋人を作った母親が嫌いだった。学校にも行かなくなり、バーニーズ・マウンテン・ドッグと立科で暮らす伯父・道夫のもとに身を寄せることに。隣に住む高校生・正樹とも仲が深まり、二人は登山の楽しみに目覚める。わだかまりを少しずつ癒やしていく二人のそばには常に溢れる自然や愛犬ワルテルの姿があった。犬の愛らしい姿が心に響く長編小説。
引用元:集英社HP
読後の感想
「良いGiver」に心洗われる物語
本書では、いわゆる「良いGiver」が多く登場します。(人も、犬も)
「相手に何をしてあげられるか」を自然に考えて、見返りを求めず、相手の気持ちにただ寄り添う。
相手が自分との時間を取ってくれることに感謝し、心を込めてもてなす。
主人公の雨音も、もともと十分なGiverの素養を持つ女の子でしたが、友人や動物との交流を通じてさらに「良いGiver」になっていく過程が描かれています。
見返りなど求めずに家族を愛し、気持ちを汲み、辛いときや悲しいときには余計な言葉は口にせずにただ寄り添ってくれる。犬の愛に触れるたび、自分もだれかにとってのそういう存在でありたいと思う。人間には犬のように振る舞うことはとても難しい。それでも、努力することで近づけるはずだ。
本文 P.365より
動物というものは本当に純粋で、信頼する相手には無償の愛を注いでくれます。
本書を読んで、私の実家の柴犬(3年前に17歳で他界)を思い出しました。普段はそっけない子でしたが、私の祖父が亡くなって家族一同が悲しんでいる時など、沈痛な空気を察して心配そうに接してくれたのを覚えています。
言葉が分からなくても、生物としての種が違っても、伝わるものは多くあるのだと実感した経験でした。
ちなみに著者の馳さんは大変な愛犬家で、ご自身の歴代の愛犬たちが教えてくれたことが本書には詰まっています。
「あらすじ」にもあるとおり、本書の舞台は長野県北佐久郡の立科町です。
雄大な自然と、本書の随所に現れるGiver達の思考や行動が、物語全体を通して感じられる清涼感の源になっています。
思考のベクトルについて考える
今から約1年前、『夢をかなえるゾウ 1』を読んだ際に、最も刺さったのが次のセリフでした。
「ベクトルがな、自分に向きすぎなんや」by ガネーシャ
まさに当時の私は、恥をかくことを恐れ、自分の心地よい状態に留まろうとする、典型的な「自分にベクトル向きすぎ人間」でした。以来、少しでも「ベクトルを相手に向けられる人間になろう」と思って、思考する際のベクトルの向きを極力意識するようにしています。
(自室の壁にもこんな紙を貼って、忘れないようにしています↓)
本書『雨降る森の犬』のような小説を読む際にも、同様の意識を実践しています。
具体的には、登場人物それぞれに対して、「この人は良いgiveができている人だなあ」とか、「この場面のこの人はベクトルが自分に向いているなあ」などと考えながら読むのが癖になっています。(小説はもっと気楽に読むべき、という意見もあるかもしれませんが。。。)
思考の癖も習慣の一つだと思っているので、無意識的にベクトルを相手に向けられるようになるまで、繰り返し練習します。
動物が教えてくれる、「今を生きること」の大切さ
「過去はこうこうこうだったから、未来もこうこうこうなるはずだ。そう決めつけて、時にはやっても無駄だとか、あまりいい結果が得られそうもないからといって、今やるべきことをやめてしまう。(中略)動物は違う。あいつらは、今を生きている。瞬間瞬間をただ、精一杯生きているんだ。(中略)動物が幸せなのは、今を生きているからだ。不幸な人間が多いのは、過去と未来に囚われて生きているからだ」
本文 P.163より
動物の姿が美しく、人々の胸を打つ理由は、今を全力で生きているからです。
私はNHKの「プラネットアース」のような自然ドキュメンタリー系の番組が好きなのですが、「なぜ魅力を感じるのか」を上記のセリフが言語化してくれたように感じました。サバンナやジャングル、北極などの過酷な環境で、種の保存という目的を達成するため、「ただ生きる」ことをしている動物たちは、純粋に美しいです。
(余談)
2020年に完結した「BEASTARS」(ビースターズ)という漫画の中で、主人公のレゴシに昆虫(蛾さん)が語りかけるシーンを思い出しました。
「今に一点集中して生きる昆虫は、言葉も煩悩もない、シンプルで高尚な世界に生きている」といった内容だったと記憶していますが、まさに「今を全力で生きる」の究極形だと思います。
人生とは「夢中になれるもの探し」の旅
本書の中で、主人公たちは何らかの「夢中になれるもの」を既に持っているか、または物語の中で新たに見つけていきます。
絵を描くこと、写真を撮ること、山を登ること。
何であれ、「ただそれ自体が楽しいからやる」という理想的な状態で、そのような対象を見つけられている彼らを羨ましく思います。
3歳児の子育て真っ最中の身としては、我が子が夢中になれるものは何かを探す毎日です。
娘が少しでも興味を持ったことは、まずは挑戦させてみることを心掛けています。
【参考】娘のこれまでの興味関心
■バイオリン:きっかけはクリスマスに駅で見かけた路上ライブ
→ 体験レッスンを受講。開始10分で興味を失う。
■ピアノ:私が弾いている姿を見せることで、徐々に興味を持つ。
→ 体験レッスンの受講を検討中。まずは親(私)が行ってきます。
■水泳:きっかけは保育園の友達が通っていること。
→ 近日中に体験クラスに参加予定。
私の好きなYoutuberの一人である友村晋さんが、「子育てとは、子供のハマるもの探しの旅」と仰っていましたが、まさにそのとおりだと思います。
そして親である私自身も、自分の人生で「夢中になれるもの」を探すべく、転職するなどしてもがいている最中です。
本書の中でも、次のセリフが特に印象に残りました。
(山の風景を描きたいが、登山を躊躇している主人公に対して)
本文 P.216より
「それを描く、描かないじゃなくて、知ってるのか知らないのかが問題なんだ。おれは別に山岳写真家や風景写真家になりたいわけじゃない。でも、この世で一番綺麗な星空が見られるなら、なにをしたって見に行きたい。だって、それがおれっていう人間に蓄積されるんだぜ」
これは今の私にはものすごく刺さるセリフでした。
30代も半ばを迎え、最近ようやく、自分の人生を俯瞰して見ることができるようになってきて、様々な経験を自分に蓄積するという考え方の重要性を感じています。
楽しい経験も苦しい経験も、それが人としての厚みを作り、豊かな人生につながる。
私も(自分の意志とは関係なく)苦しい状況に直面して揉まれる中で、ようやくこのように思えるようになってきました。
もっと早くにこのマインドを持ちたかった…という後悔はありますが、何歳からでも遅くはありません。
娘と共に、「夢中になれるもの」を探す旅を続けたいと思います。
■編集後記
本書を手にとったきっかけは、父からの勧めでした。
「ビジネス書ばかりでなく、たまにはこういう本もいいぞ」とのことでしたが、確かに良い本でした。
本書の「山好き」の部分が響いた方には、同じ著者の「蒼き山嶺」の本もおすすめです。
爽やかな物語の「雨降る森の犬」とは打って変わって、雪深い日本アルプスを舞台に展開されるシリアスな山岳ミステリーですが、著者の「山への溢れんばかりの愛」を感じられる一冊です。
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